何から逃げるのか- 1ペテロ5章8節「悪魔と罪の心の関係」
- thewordforyoujapan
- 10月25日
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何から逃げるのか ― 1ペテロ5章8節
2025.10.21 The Word for you
1. 悪魔と罪の心の関係
「身を慎み、目をさましていなさい。あなたがたの敵である悪魔が、ほえる獅子のように、
だれかを食い尽くそうと探し回っています。」(1ペテロ5:8)
ペテロが描く「悪魔」とは、人間の外にいる実在の霊的存在です。しかし、その攻撃の目標は人の中にある罪の性質――聖書が「肉」と呼ぶ部分です。サタンはキリストと結ばれた者の中には入れませんが、肉を刺激し、信仰を崩すために外側から働きかけます。
2. サタンはキリストと結ばれた人の中に入れない
(1)聖書の証言
「しかし、あなたがたのうちに神の霊が住んでおられるなら、あなたがたは肉の中ではなく、御霊の中にいます。」(ローマ8:9)
聖霊が住まうところにサタンは入り込むことができません。エペソ1:4–5は、神が天地の創造の前からキリストにあって選び、子としてくださったことを語ります。したがって、信者は永遠の契約のもとにあり、サタンがその結びつきを壊すことはできません。
(2)外から働くサタン
「あなたがたは以前は罪と罪過の中に死んでいました。そのときはこの世の流れに従い、空中の権威を持つ支配者、今も不従順の子らの中に働く霊に従って歩んでいました。」(エペソ2:1–2)
ここでパウロは、サタンが人の中に住んでいたとは言いません。人は「この世の流れ」に従って歩んでいたのです。サタンの影響は外的なものであり、社会の価値観・欲望・文化を通して及びます。魂の中心――神の選びの領域――には触れられません。
(3)再生前も神の所有のうちに
エペソ1:4はこう言います。
「神は、天地の創造の前から、キリストにあって私たちを選び、御前で聖く、傷のない者にしようとされた。」
選びは時間の出来事ではなく、永遠の神の決定です。
したがって、まだ再生していない時でさえ、選ばれた者は神の主権の中にあります。サタンがその魂を自由に操ることはできません。
彼の働きは外側――この世と肉――に限定されています。
3. 選ばれた者の守りとサタンの限界
(1)神の守りの境界線
カルヴァンはこう言います。
「選ばれた者たちは堕落の中にあっても、神の秘められた御手のもとに保たれており、悪魔はその魂を完全には支配できない。」(『キリスト教綱要』II.4.2)
再生前でも、選ばれた人は完全にサタンの支配下にはありません。神の見えない御手がその人を囲み、堕落の只中でも保たれています。
(2)ヨブ記が示す制限
「では、彼のすべてをおまえの手にゆだねよう。ただし、彼自身には手を触れてはならない。」(ヨブ1:12)
サタンは神の許しなしには何もできません。攻撃できるのは外側――肉体や環境――の範囲に限られ、魂そのものには一切手を触れられないのです。
「神はサタンをも用いて御旨を成し遂げる」(創世50:20)
(3)神の鎖につながれた敵
R.C.スプロールは言います。
「サタンは神の鎖につながれた犬のようなものだ。神が鎖を伸ばさない限り、一歩も動けない。」(『The Holiness of God』)
サタンの「自由」は見せかけに過ぎません。実際は神の主権のもとで制限されており、その働きすら神のご計画の中に組み込まれています。
4. サタンのねらいと働き
サタンのねらいは、単なる悪い行動を引き起こすことではありません。彼の本当の目標は、人の信仰を崩し、神への従順を壊すことです。
ねらい:人の中にある「肉(罪の性質)」を攻撃する。
内容:罪の性質とは、アダムから受け継いだ堕落した本性。
目的:信仰を倒し、神への信頼と従順を破壊する。
カルヴァンが言うように、
「サタンは火をつけるが、薪は人の心の中にある。」(『綱要』II.4.2)つまり、サタンの誘惑は外から来ますが、反応して燃え上がるのは内なる罪です。
5. サタンの働きの流れ
サタンの働きは段階的です。彼は人の肉を刺激し、欲を膨らませ、最終的に信仰を崩壊させます。
標的を定める(肉):人の中にある罪の部分を狙い撃ちします。
刺激する:欲望をゆさぶり、思いを揺さぶります。
「人はそれぞれ、自分の欲に引かれ、誘惑に陥る。」(ヤコブ1:14–15)
信仰を崩す:罪を行わせることよりも、神への信頼と従順を破壊することが目的です。
結果:恐れ・疑い・恥によって人を縛り、神との交わりを遠ざけます。
この流れは、人が「信仰の盾」を下ろした時に最も顕著になります。エペソ6章16節が命じるように、「信仰の盾を取りなさい。」それは、燃える矢――すなわちサタンの誘惑――を防ぐ唯一の武具です。
6. サタンの支配の広がり ― 「空中の権威を持つ支配者」
エペソ2章2節は、サタンの支配が「この世の流れ」として現れることを語ります。サタンは個人を順番に訪問するのではなく、世界全体の価値観・文化・思想の「空気」を通して働きます。
「空中の権威」とは、空そのものではなく、人の社会・心・文化に存在する目に見えない影響の層です。
サタンは世界全体の価値観・文化・思想の「空中(spiritual atmosphere)」を支配し、人々の思考や価値観を神から離す方向へ傾けます。「不従順の子らの中に働く霊」とは、神に背く心を活性化させるサタンの力のことです。
しかし――信仰者はその「空気の中」に生きながらも、その支配の中にはいないのです。なぜなら、彼らの国籍は天にあり(ピリピ3:20)、支配者はサタンではなくキリストだからです。
7. 「探し回る」とはどういうことか
「あなたがたの敵である悪魔が、ほえる獅子のように、だれかを食い尽くそうと探し回っています。」(1ペテロ5:8)
この「探し回る」という表現を読むと、悪魔が地上を歩き回り、個々の家を訪ねているように思うかもしれません。しかし、ペテロが意図しているのは、世界全体に及ぶ働きです。
ギリシア語の「歩く」(περιπατεῖν)は、単なる移動ではなく「生き方」や「支配のあり方」を表す言葉です。
聖書では――
「霊によって歩みなさい」(ガラテヤ5:16)=御霊の導きに従って生きること。
「この世の流れに従って歩んでいた」(エペソ2:2)=神に背く生活。
したがって、「悪魔が探し回る」とは、サタンが全世界の中で、自分の支配を拡張するように働くことを意味します。彼は同時的・構造的に働き、個人を順番に訪ねるのではなく、社会の仕組みそのものを通して人を捕らえます。

